魔にして魔を狩る者
第九話
夜になり再び巫浄ビルへと向かった。
そこは昼間とはまったく違う空気になっていた。
これはほぼ間違えなく魔術的なものが関わっているだろう。
とりあえず屋上が怪しそうだから見に行ってみよう。
屋上に上ってみるとそこには一人の女性が浮かんでいた。
周りに八人の少女を飛行させて。
この光景を見てここで死ぬはずの少女は八人なんだと理解できた。
とりあえずは中心にいる女性について調べるのがいちばんだろう。
僕の目を通して分かったことは彼女は巫浄の末裔で彼女が最後ということとここにいる彼女は本来の彼女でないということだ。
先の藤乃さんの件といい今回といい僕が直接関わっているかは分からないが関連があるのだろう。
おそらく退魔の家計が二つも連続でとなると式さんが目当てと見て間違いないだろう。
彼女の体は根源に通じているのだから興味がある者は多いだろう。
出来るだけ早くその黒幕を探し出して排除しないと面倒なことになりそうだ。
とりあえずは目の前の女性からどうにかしないとな。
彼女は暗示が得意のようだが、魔法使いである僕には通じないだろう。
もし僕にまで通じるようならなおのこと放っては置けない。
まずは話が出来るかだな。
「始めまして。僕は水城薫といいます」
「はじめまして。巫浄霧絵よ。私に何か用かしら?」
「ここ最近起きている飛び降り自殺について調べていたんですよ」
「私の周りにいる彼女たちのことかしら?」
「そのとおりですよ」
「それであなたはどうしたいのかしら?」
「あなたを排除するといったらどうしますか?」
僕がそういった直後に彼女は僕に暗示をかけてきた。
飛べるという暗示のようだが、その強さが尋常じゃない。
これは暗示というよりも洗脳か呪いだろう。
これなら飛び降り自殺をさせることも出来る。
だけど僕には通じない。
「僕に暗示などは通じませんよ。暗示というよりは洗脳か呪いのようなものでしょうけど」
「どうして?」
「僕の力のほうがあなたのそれより強いからですよ」
「でもあなたは私に触れられないわ、私は誰にも触れられない代わりに誰からも触れられないから」
「そうでもないですよ」
僕はそういって彼女の手をとった。
普通の人には出来ないだろうが僕にとって霊体に触れることはあまりに簡単なことだ。
僕は一応霊媒治療も学んでいるのだから。
「私を殺すの?」
「ずいぶんと単刀直入ですね。別に殺すかどうかはどうでもいいことなんですけど」
「ならどうしてこんなところまできたの?」
「僕は周りに厄介ごとがあると首を突っ込みたくなる性分なので」
「そんなことで?」
「別にあなたが普通の人のように戻りたいというならその願いをかなえてあげてもいいですよ」
「どうしてそこまでするの?」
「困っている人を助けるのに理由が必要ですか?」
「そう、ならお願いするわ」
ちょっと拍子抜けなところがあるがこれでこの件は解決できるな、ついでに黒幕についても調べてみるか。
とはいえこちらの霧絵さんではあまり情報が分からないので後で本体のほうから情報をもらうとしよう。
巫浄霧絵、彼女がもしこちらの世界に入りたいということにあれば暗示だけなら世界でもトップクラスに入れるようになるかもしれない。
藤乃さんといい彼女といい退魔の一族は一芸に秀でた人の多いことだ。
式さんも本来は二重人格だったというからそれも一芸と取れるだろうし。
総合力で勝てないなら得意分野だけでも勝つということか。
こんな調子じゃいずれは壊滅した七夜の生き残りに会ったりするかもしれないな。
まあ、生き残りがいればの話だけど。
後日僕は霧絵さんの治療を施し今回の件はこれにて終了。
黒幕についての情報は取り出せなかった。
魔術師であるのはほぼ間違いないようだ