魔にして魔を狩る者
第六話








ORTさんと一緒に日本に戻ることになったのでそれなりの準備が必要だった。
第一にORTさんの戸籍を偽造しておかないといけなかった。
その点は水城の財力で何とかなった。
ORTさんの日本に滞在している間はセシルという名前になった。





そういうわけで日本に戻る前にORTさんにセシルという名前に慣れてもらうために南米の町に出て買い物をすることになった。
こういうときには美人といってまったく差し支えない自分の容姿が役に立つ。
なぜならセシルさん(これからはそう呼ぶことにする)は絶世の美女なのだ。
どうせ目立つのは分かりきっているなら嫉妬を浴びるよりは美女の二人旅と思われたほうがいいだろう。
もっともそのせいでたくさんの人にナンパされたのだが。
僕は東洋系でセシルさんが西洋系だから予想以上で多少疲れた。





ついでということでセシルさんの服もたくさん買っておいた。
セシルさんならどんな服でも似合うから選ぶのは割りと楽だった。
美人の女性が着飾って隣にいるというのは本当に気分がいい。
もっとも周りから見れば着飾った二人の美女がいるように見えるのだろうけど。





二、三日してセシルさんも偽名に慣れてきた。
それまで昼は町に出て買い物をして夜は魔術や体術等の訓練をしていたから本当に疲れた。
セシルさんは魔術や体術についての造詣も深いので大変参考になった。
これからどれくらいの期間セシルさんと一緒にいることにいられるか分からないので学べるときに学んでおかなければ。





セシルさんのおかげで僕の魔術もまた一段上がった。
それは固有結界についてことなのだが僕の固有結界は広範囲に張っても大して意味はないのでそれを張る範囲を自分の体表に留める事にしたのだ。
あるいは混沌のように固有結界の内包が出来るようになればいいのだがそれには100年以上の時間がかかりそうだ。
それに僕の固有結界を内包して効果が残るか分からないし。
僕の固有結界の効果は自分の潜在能力と同等かそれ以下のものに化けるということなのだからどっちに転んでもおかしくないのだ。
自分の潜在能力以上のものに化けることも出来るがその場合消費魔力が半端じゃないのだ。
ちなみにセシルさんに化けるならもって1分というところだ。
それだけの時間化けていれば次の日は魔力が枯渇して動けないだろう。
ついでに言っておくと宝具を持っているような英雄に化けた場合宝具は使えない上に生前の能力以上は出せない。





体術のほうはセシルさんとの実践練習ということになった。
セシルさんは殺さない程度には手加減はしてくれるがそれでも半端なく強い。
勝てるか否かではなく攻撃を当てられるか否かというレベルの差があるのだ。
もちろん必殺の一撃ではなく当てるためだけの一撃をということだが。





そうしてセシルさんと一緒に日本に向かう日になった。
そこに至ってある問題を思い出した。
セシルさんを橙子師にどう説明するかという問題をだ。
橙子師のことだ、絶対にからかってくるに決まっている。
そのことについてセシルさんに聞いてみることにする。



「セシルさん、実は僕の魔術の支障にセシルさんのことをどう説明しようか悩んでいるのですが、何かいい案はありませんか?」



その質問に対してセシルさんはさも当然といった風に、



「あら、それなら有りのままを報告すべきではないの?」



とおっしゃられた。
だからそれがまずいのだ。
もっとも橙子師の性格を知らないセシルさんに言っても意味がないことでしょうけど。
などと考えていると、セシルさんからさらに追撃の一言が出た。



「どうせなら恋人同士ということでもいいのよ」



この一言には本当に驚いた。
何せ一瞬セシルさんの言っていることの意味が分からなかったのだ。
僕が呆然としていると、



「それで決定ね」



などという有無を言わせぬ確認の言葉までセシルさんから出たのだ。
確かにセシルさんほどの美人の恋人というのなら橙子師にからかわれるくらいたいした問題ではない。
どうせ何を言っても無駄なのだろうし。



「分かりましたそれでいきましょう」



と僕も同意の返事をしてこの問題は有耶無耶というかかえって悪いほうへ向かった。
しかしセシルさんの恋人というのはそれ以上の価値があると僕は思う。





そんなこんなで日本に到着した。
とりあえずのところは家に顔を出してセシルさんのことを説明した。
家とは仲があまりよくないのだが僕は一族の中でも一番強いし後継者なのでそれなりに自由に振舞える。
今回の件も家の親は何も言わなかった。
もっとも強くあることが第一という家なのでセシルさんは歓迎されていたといっていいほどだったのだが。





次は問題の橙子師のところに行くことになった。
予想通り橙子師は僕のことをからかってきた。
それとセシルさんのほうも僕が橙子師について説明していなかったので驚いていたようだった。
「最高の人形師が弟子をとるとは思わなかった」とのことだ。
橙子師とセシルさんは割りと話が合うのかいろいろと話をしていた。
今日は黒桐さんと式さんはいないそうなのでまた後日セシルさんとくることになった。




後日黒桐さんと式さんにセシルさんを紹介したところ、式さんはセシルさんに対して殺したいという衝動を抱いているようだ。
僕に対しても彼女は殺したいという衝動を持っているようだから、彼女は人ならざるものに対しては自然に殺意がわくのだろう。
これは純血の退魔の家である両儀の娘なら当然とも言えることだ。





なんだかんだでセシルさんも日本での生活に関しては何の問題もないようなので安心した。
これからどのような日々を送ることになるか楽しみだ。






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