魔にして魔を狩る者
第五話
バゼットさんやシエルさんに会ったあとお二人は別々にほかの死徒や落ちた魔術師を倒しにいくそうなので、僕はこのあたりの未開の地を旅してみようと思う。
もしかしたら神代から続いているような魔術系統もあるかもしれない。
それについて知るのは大変いいことだと思う。
僕自身一応魔法使いの一人ではあるのだけれども、魔術に関してはまだまだ学ぶことは多い。
魔術という神秘を学ぶだけでなく、それを実際に使用している部族があればぜひ見てみたい。
そう言うことでこのあたりを探索したのですがこれといった魔術関係のものはないようですから近くの部落で一晩の宿を取ることにした。
近くの部落といっても普通の人はおろか探検家ですら訪れないような僻地に来てるのですが。
このような僻地なら魔術的な品もあるかもしれませんから物々交換できるようなものを持って来ていて正解かもしれない。
僕の能力を駆使してこの地の人々の言語をコピーして話してみると驚いた事に本当に珍しいものがたくさんあるようだ。
この部落では他の者から手に入れたものを大切に取っていたようで、宝具と呼ばれているもののかけらなどがたくさんあった。
その内いくつかを物々交換してもらうことに成功した。
彼らは戦利品をほかの部族が来たときの交換用の品として取っていたようですが、もう何年もほかの部族などの人は訪れていないようだ。
今日手に入れることが出来た最大の品は聖槍ロンギヌスの欠片だ。
これはある概念武装に装備されていたもののようで、それを持ったものを倒して奪ったらしい。
これと僕の能力を使えばロンギヌスの完全なる再現も可能だ。
宝具クラスのものを再現するにはそれ自体の一部を媒介にするしかないので、大変うれしい。
ほかに手に入れたものは概念武装の一種といったものだ。
これらはどれも強力なものばかりでした。
この部族の人たちは並外れた身体能力を持っているらしく、強い人では弱い死徒と同じくらいの身体能力を持っている。
その強さゆえにこれほどのものを手にすることが出来たのだろう。
ここにいる人たちと戦うことになったら先の死徒など問題にすらならないレベルの戦いになるかもしれません。
出来ればこの人たちにはこのまま静かに暮らしてもらいたいものだ。
本当に世界は広い。
僕とて規格外という自覚はあったのですがここでは普通の成年男子より少し強い程度でしかない。
今日はこれくらいにして寝るとしよう。
明日はロンギヌスの完全なる再現と手に入れた概念武装等をばれないように保管しないといけない。
保管用の入れ物は空間自体を歪めて、入る体積の際限をほとんどなくすものなのだ。
形は小さなバックですけれど。
次の日朝早く起きてロンギヌスの完全なる再現をして、バックに荷物を詰めた後、この部落を後にした。
この部落にまた来る機会があったら今度はここで体を鍛えてみるのも良いかもしれない。
この部族では多少魔術を使える者もいるようで僕の魔術に関してもあまり驚かなかった。
もっともロンギヌスの再現ではなく荷物の方しか見せてはいませんが。
こうして再び未開の地の探索を開始した僕は本当に僻地の中の僻地に来てしまったようだ。
何かいやな予感がする。
この近くに危険なものがいる。
おそらくはORTでしょう。
まだかなり離れているだろうにこれほど危険を感じるとは驚きだ。
さすがは死徒二十七祖第五位。
ほかの二十七祖もORTには劣るとはいえこの様子では大変危険そうだ。
とはいえ実際に会ってみない事にはどうしようもなさそうですし、ORTに会ってみるとしますか。
僕は気配のするほうへと向かっていった。
進めば進むほど気配は強力なものとなりそのプレッシャーだけでも弱いものなら殺せるのではというほどになったころ、ついにORTはその姿を現した。
とりあえず話が出来るかだけでも知りたいので話しかけてみることにする。
「あなたが死徒二十七祖第五位ORTなのですか?」
やはり最初はこの質問が一番だと思ったのでこの質問をしたところ、
「その通りです、私がORTです」
日本語で返事が返ってきた。
まさか日本語でした質問に返事が返ってくるとは思わなかった。
一応ドイツ語や英語でも聞いてみようかと思っていたのですがその必要がないので楽が出来ました。
それならば次に話すことは決まってきます。
「僕の名前は水城薫と言います。ORTさんでかまいませんよね、それとどうして日本語が話せるのですか?」
「ええ、なんと呼んでもかまいません、それと後者の質問ですが私は意外と暇なので退屈しのぎに世界各地の言語を覚えているのですよ」
僕のくだらないとの取れる質問にもORTさんはこたえてくれた。
とはいえ蜘蛛の姿をしたORTさんはどうやって言語を学んだのだろう。
そう考えていると、ORTさんの姿が女性の姿に変わった。
まさかそのような技があったとは。
しかも先ほどまでのプレッシャーのほとんどが消えているし魔力もほとんど感じられない、しかしその姿でも戦闘能力は変わらないようだ。
そう考えているとORTさんが話しかけてきた。
「これで疑問は解決しましたか?この話をするとたいていのものはどうやって学んだのか疑問に思いますから、あなたが疑問に持ったことぐらいお見通しなのですよ」
やはり気づいていたか、まあそれはそれとして次の質問をしてみましょう。
「僕はこんな容姿でも男なのですが、ORTさんは女性なのですか?」
「ええ、私は女性です。ところでこちらから質問してもかまいませんか?」
「ええ、答えられることなら答えましょう」
さてどのような質問が来るのか大変気になるところですが、多分僕が来た目的を聞いてくるのだろう。
そうなるとあるいは戦闘ということも考えておかないといけないな。
「それでは予想されているでしょうが、あなたがここに来た目的は何ですか?」
「僕がここに来た目的は腕試しです」
予想通りの質問に僕は予定通りの返答をした。
これに対してORTさんはどう反応するのだろうか。
「そうですか、じゃあ私が腕試しに協力してあげましょうか?
私に対していきなりけんかを売らずに話しかけてきたものは久しぶりなのであなたのことは気に入っているのですよ」
ORTさんは本当に僕のことを気に入ってくれているようだ。
それならばこの申し出は受けてみるべきでしょう。
ORTさんほどの者に気に入られるとは僕はついている。
「ではお願い出来ますか?」
「それならあなたが出せる最大の攻撃をしてきなさい。私がその強さを測って差し上げます」
さすがというべきせりふだ。
それならば僕も普段出さないレベルで力の解放をしてみることにしましょう。
普段とは比べ物にならかいほどの力を解放していると僕の竜の血に宿っている武器が見えた。
それは三叉の矛のようだ。
これが家に伝わっている二つの宝具のうちの一つ竜神矛なのだろう。
もう一つはとある神の化身とも言える宝具なのでもし出せたとしても使えば一瞬で魔力が完全に尽きるだろう。
この竜神矛の効力は水を操ることと竜の召喚だが、後者は今の僕には不可能だ。
しかしこれで新たな目標が出来た、それは竜神矛を完全に使いこなすことだ。
僕は竜神矛を具現化し、魔力の大半を込めた一撃を放った。
それはまさしく荒れ狂う竜のような水の塊となってORTさんに襲い掛かった。
ORTさんはそれにすこし驚いているようでしたが、固有結界らしきものを発動して水を氷にしてしまった。
あれが噂に聞く侵食固有結界水晶渓谷なのだろう。
僕の最大威力の攻撃ですらORTさんの前では無力なのか。
僕が呆然としているとORTさんが話しかけてきた。
「正直驚きました。水晶渓谷を発動しなくては到底防げない一撃でした。お見事です」
「それはどうもありがとうございます、ところで僕の先の攻撃の威力はどれほどのランクか説明して頂けませんか?」
やはりほかの死徒などと比べてどうなのかということが一番気になる。
先の攻撃は僕の魔力の大半を使ったものなので、反転によって姿が変わったのも一瞬で終わってしまった。
ORTさんは少し考えた後答えてくれた。
「そうですね、この攻撃は最高クラスのものといって間違えないでしょう。
あなたは最大出力を出すのに夢中になっていたうちに結界を張ったのですが、それがなければ大変なことになっていたと思いますよ。
そうですね、もし当たれば二十七祖でも滅ぶほどの威力ですよ」
ORTさんの返事を聞いて驚いた、僕が最大出力を出すのに夢中になっていたとはいえ結界を張られたのに気づかないとは。
それにもしあたればということは防ぐ、あるいはかわせる者もいるということだろう。
さすがは二十七祖。
おそらく黒騎士などは当たっても生きているだろう。
二十七祖と戦うときは工夫が必要ですね、力押しではまず勝てないということが分かっただけよしとしよう。
そんなことを考えているとORTさんがまた話しかけてきた。
「いろいろと考えているところ悪いけれど、少し良いかしら?」
「何ですか?」
「私があなたを気に入ったという話はしたわね。それに加えてあなたの強さと潜在能力も見せてもらって決めたのだけれど、あなたと行動をともにしようと思うの」
「え、今なんと?」
「あなたと一緒に行動するといったのよ」
本当に驚いた。まさかORTさんがこの南米から動くとは。今日最大の驚きだ。
とはいえORTさんが一緒にいてくれるというならば僕自身の特訓の効率よく出来るし、僕自身ORTさんを気に入っているのだ。
これは僥倖というべきなのだろう。
こうして僕はORTさんと行動を共にすることになり、一緒に日本へと向かった。
はてさてこれからどうなるのか。
タイプマーキュリーたるORTさんが日本に来るとなるといろいろ問題も起こりそうだ。
それも訓練の一貫だと思えばなんともないが、橙子師にはどう説明しよう。