魔にして魔を狩る者
第四話
僕は海外にいる吸血鬼などと闘って自分の実力を試すために海外に行くことにした。
学校もあるから一週間ほどのことではあるけれど、ある程度自分の実力がどれほどかは理解できるだろう。
橙子師の元には式さんがいるから依頼の方は大丈夫だ、それに家にある秘宝のいくつかも持ってきているから僕もそうやすやすとは死なないだろう。
とりあえずは南米のあたりにしておこう。
あそこにはORTがいるから行ってみる価値はある。
それならば欧州に行けばいいのかもしれないけれど橙子師が封印指定なので、そのことがばれるといろいろ厄介だ。
だから南米なら現地の魔術組織とかもあるので、とりあえず協会の人はほとんどいないだろう。
僕は南米についた。
これからとりあえず前もって手に入れていた情報に従って死徒が巣くっている村に行ってみることにする。
そこの死徒はすでにひとつの村を完全に支配しているらしい。
僕のために作られた概念武装を試すいい機会だ。
その概念武装は名を魔桜、破桜という二本の小太刀だ。
この二本の概念武装ならば死徒でも十分倒せる。
もしもの場合は僕の内に眠る竜の血を普段以上に開放すればいい。
もっとも、試したことがないのでそれを制御しきれる保証はないのだが。
それでも制御しきる自信はある。
死徒の支配している村にたどり着いた。
確かにここからは死臭しかしない。
ここに住んでいた人は皆殺されてしまったのだろう。
無抵抗の人間を一方的に虐殺するということには、戦闘マシーンとして育てられた僕でもためらいがある。
それは平和な日本で育ったせいでもあるのだろうし、僕が今まで依頼されて殺してきたものたちが皆堕ちてしまった者だけだったせいでもあるのだろう。
とりあえずここの空気は不自然すぎる。
出来るだけ早く終わらせたいものだ。
今回は直死の魔眼を使わないで魔桜と破桜だけで死者たちを殺しながら進んだ。
魔桜と破桜は桜と同じで血を吸うのだ。
それに加えて復元呪詛の阻害の効果もあるから、死者達は復元することは困難だろう。
ただし、これはある程度の力のある死徒にはほとんど意味をなさない程度の効果しかないものではあるが。
もともと普通の生活を営んでいたのだろうが、不運なことだ。
これ以上被害が広がらないためにも、ここの死徒を殺さないといけない。
僕は村の中心に向かった。
そこに死徒がいる。
それを倒したとしても死んだ人は生き返らないし、死者も残るけど、こんなことをするような奴は気に入らない。
絶対に殺された人が受けた痛みを身をもって実感してもらう。
戦うということは自分が死ぬかもしれない状況に自身を置くということだ。
決して一方的に命を奪うということではない。
僕は常に戦いをしてきたのだ、死者達との戦いも僕を死ぬということも僅かではあるがあり得た。
しかしここの死徒は違う、死徒の力があればこんな小さい村ならばすべてを死者にするのでさえ怪我さえしないだろう。
それにこれだけ殺せば殺した人のことさえ覚えていないだろう。
確かに僕もそれなりに殺してきた、しかし僕は殺してきた者たちの命も背負って生きているのだ。
たとえそれが極悪人でも僕は覚えている。
そうでなければならないのだ、たとえ名前などは覚えていないにしてもそのものが存在したということはたとえ殺した数が多くても覚えておくべきだと僕は思っている。
確かにそれは何の意味もないことだろう、しかし死んでしまったものに対しては敬意を払うべきだと思う。
そうこう考えているうちに村の中心にたどり着いた。
そこには死者に囲まれた死徒がいた。
たとえ死徒でも問答無用で殺すのは間違っていると思うので少しだけ話をすることにした。
この死徒に聞いてみたいこともいくつかあるのだ。
「あなたがこの村をこのような目に合わせた死徒ですか?」
「そのようなこと問うまでもなかろう」
死徒は当然だという風に答えた。
この死徒は予想通り自分がしてきたことをなんとも思っていない。
それは許せないことだ。
「あなたは自分がしてきたことをなんとも思わないのですか?」
「人間どもを死者にしたことを言っているのか?」
「それ以外に何があるというのですか?」
「そのことについてならなんとも思わんよ」
この死徒の性根はとことん腐っている。
なんとも思っていないなんてこと普通ははっきり言うことは出来ないだろう。
自分が超越種になったから何をしてもよいと思っているのだろう。
「そうですか。ならば僕が今からあなたを殺してもなんとも思いませんよね?」
「ふん、人間程度にこの私を殺すことは出来んよ」
「それは試してみないとわかりませんよ」
僕と死徒との戦いはこうして始まった。
この死徒は大して強くない。
でも油断は禁物だ。
確かにこの死徒は弱い、けどそれは総合力の話だ。
攻撃力などで言えば普通状態の僕などでは遠く及ばない。
だから一撃でも当たればかなりのダメージを受けるだろう。
僕は死徒を徐々に追い詰めた。
普通の概念武装ぐらいでもこれくらいの死徒なら問題はないだろう。
僕の二刀小太刀の効果で死徒の血を吸っている。
死徒は自分の血を吸われてどんどん弱くなっている。
とはいえ死徒も必死になってきている。
今まで以上に油断は出来ない。
こちらが死徒の腕を完全に切り落とそうとしたときに死徒は片腕を犠牲にしてカウンターを仕掛けてきた。
その攻撃で僕も内臓にかなりのダメージを受けた。
これ以上決着を引き伸ばすことは出来ない。
次の一撃で決める。
「破魔乱舞」
破魔乱舞、この技は魔桜と破桜を投擲して敵を切り刻むものだ。
さらにこの技は敵の血を普通に斬るよりも多く奪うことも可能なのだ。
この投擲は敵の血をめがけて飛んでいくのだ。
だからこの投擲をかわす事は生物には不可能なのだ。
ただし叩き落せばそれまでなのだが。
この死徒にそのような芸当が出来るはずもなく、死徒は完全に死んだ。
僕は死徒を片付けてから内臓の治療をして、残りの死者を殺すために移動しはじめた。
その移動中にかなりの魔力を持ったものが二人近づいてきた。
まさかこれほどの魔力を持った死者がいるはずはないし、いたなら死徒のそばにいたはずだ。
だからおそらくは教会の代行者か封印指定の執行人だろう。
それぞれ別方向から僕のほうへ向かってきている。
もう逃げるということは出来ないだろう。
それならばぼろを出さないように気をつけるしかない。
二人の女性がほぼ同時に僕のところに来た。
予想通り一人は教会の代行者だ。
もう一人のほうは話しをしてみないと分からないので話しかけてみることにする。
「はじめまして、僕は水城薫といいます」
「私はバゼット・フラガ・マクレミッツ、封印指定の執行人です」
「私はシエルといいます。ところでここの死徒はあなたが倒したのですか?」
「私たち以外の者が派遣されたという話は聞かないし、このような女性が死徒を殺したとはおもえませんし」
バゼットさんは勘違いされているようだが僕は男だ。
初見ではほぼ100%女性に間違えられるけれども。
それにしても封印指定の執行人として有名なバゼットさんと埋葬機関の第七司祭の「弓」のシエルさんが来るとは予想外だ。
とりあえずはバゼットさんたちの勘違いから解いておかないと。
「勘違いされているようなので言っておきますが、僕は男です。それとここの死徒を倒したのは確かに僕です。それにあなた方は女性ではないですか」
バゼットさんもシエルさんも信じられないものを見たというような顔をしている。
確かに黒桐さんも橙子師から聞いていたにもかかわらず驚愕の表情を作っていましたけど、それほど信じられないことなのでしょうか?
式さんはまったく驚きもしなかったですし、橙子師はそのようなことは気にもしていないというのに。
「その容姿で男ですか?到底信じられませんが、そのような嘘をつく理由もありませんし信じてあげましょう」
「それに関しては同意見です、第七司祭」
二人ともしぶしぶという感じではあるけれども信じてくれた。
このようなことをわざわざ言わなくてはならない自分が情けない。
といえこの容姿はいろいろと便利なので役に立つのだが。
それより今重要なのはこのあたりにいる死者のことだ。
「その件はどうでもいいのです、それよりもこのあたりにいまだ健在の死者たちの片づけをしなくては」
「そうですね、では手分けして死者を片付けましょう」
「了解した」
シエルさんの提案にバゼットさんも乗ったので手分けして死者を狩ることになった。
残りの死者といっても僕が死徒を倒すときにそれなりに倒していたので、小一時間ほどですべて片付いた。
それからお互いのちゃんとした自己紹介という形になった。
「とりあえず片が付きましたね。バゼットさんにシエルさんでかまいませんよね」
「ええかまいませんよ、薫君で良いですよね」
「別に好きなように呼んでもらってかまいません。私は薫君と呼ばせてもらいます」
「僕もお好きなように呼んでくださって結構ですよ」
自己紹介といってもこれからが本番魔術師同士の話が始まるというわけです。
ここで少しでも余計なことをしゃべるわけにはいきませんね。
「ところで、水城とはあの水城で間違えないのですね」
バゼットさんはまずはこちらの予想通りの質問をしてきた。
この程度のことなど隠すべきことでもない。
それに調べればすぐに分かることだ。
僕は表向きには水城グループの御曹司ということになっているのだから。
「バゼットさんが思っている水城で間違えないと思いますよ」
「そうか、別にそれがどうしたというわけではないですけれど、戦闘型の魔術師というのは少ないから気になっただけです」
確かに戦闘型の魔術師というのは少ない。
本来魔術師というものは根源に至ることを至上の目的としているためにそのための研究ばかりしているものなのだ。
それなりに護身術を学んでいる魔術師は多いだろうが死徒とやりあえるほどの力があるのはほんの一握りの魔術師だけだ。
そのようなことを考えていると今度はシエルさんが話しかけてきた。
「ということは薫君は混血の一族ということですか?」
「そうですよ。教会の司祭としては浄化しなくてはなりませんか?」
「いえ、そのようなことはありませんよ。ただ気になっただけです」
教会の浄化の対象は基本的に吸血鬼だけと見て間違いないようだ。
それならば多少気を抜くことも出来る。
シエルさんは第七聖典を所有しているので、僕でも再生不可能な傷を負わせることもたやすいのだ。
第七聖典は僕の二刀小太刀程度では到底及ばないレベルの概念武装なのだ。
バゼットさんも僕と敵対するつもりはないという雰囲気なので僕はほとんど力を抜いた。
これで一安心という感じで僕たちはちょっとした話をしてから分かれた。
それにしてもバゼットさんもシエルさんも魔術師としての能力は群を抜いている。
確かに橙子師も封印指定だけあって最高峰といって差し支えない魔術師なのだが、いかんせん戦闘型ではないのだ。
だから今日バゼットさんやシエルさんに会えたのは大変収穫になった。