魔にして魔を狩る者
第二話







通り魔殺人事件が収束に向かってからおよそ二年がたったある日、僕が燈子師の事務所に行くと僕の知らない人がいた。
でも今日来ている人は魔術関係の人だとは思えない。どうしてそのような人が来ているのだろう。
気になるので中に入って橙子師に聞いてみよう。



「橙子師、薫です。失礼します」



「水城君、入っていいわよ」



やはり単刀直入に聞くのが一番だろう。



「橙子師、お客さんですか?」



「さっきまではね」



さっきまでとはどういうことなのだろうか。
僕には橙子師が彼を雇うといっているかのように聞こえたのだが、そんなはずは無いだろう。
しかし、橙子師の言葉は真実のように聞こえたのだけれども、気になります。



「さっきまでとはどう意味ですか?」



「あなたが思っている通りの意味よ。今日から黒桐君を雇うことにしたの」



まさかとは思ったが橙子師が言っている以上それが真実なのだろう。



「そうですか、判りました。お茶でも入れましょうか。」



とりあえずはお茶ぐらい出すべきだと思ったのでそう提案した。
彼に対する僕の第一印象は彼とは相容れないだろうということだ。
でもそういう人といるというもの悪くない。



「ええ、頼むわよ」



「僕も手伝おうか」



黒桐さんは割りと気さくな人のようだ。
これからは雑事は黒桐さんもやることになるだろうから、手伝ってもらうのもいいことだろう。



「そうですね、ここのものの配置を覚えてもらうという意味もかねて手伝っていただけますか」



「わかったよ」



少し話をしてから黒桐さんが帰った後、橙子師と二人で話をすることにした。
黒桐さんについてはいろいろ気になることもある。



「橙子師、彼は魔術関係の才能が無い様に思われますが」



「黒桐のことか」



「それ以外に誰がいるというのですか」



第一の気になる点がそれだ。
黒桐さんには魔術師としての才能などまったく感じないのだ。



「確かにあいつに魔術の才能はないが、ここを探し当てたということには意味があるんじゃないのか」



「ちょっと待ってください、彼は魔術の才能もないのにこの伽藍の洞を探し当てたのですか?」



それこそありえない。この橙子師の事務所である伽藍の洞には僕と燈子師が共同で張った結界があるのだ。
僕は結界を操るすべにも長けているのだ。この結界はよほどこの場所を意識しない限りここは目にも入らないほど巧妙な物ができているというのに。
それができたということは探るものとしての才能があるということですね。
それならば雇う意味はあるかもしれませんね。
しかし作った側としては一般人に結界を突破されたというのはショックです。



「分かっただろう、水城。あいつは探るものとしては抜群の才能がある」



「そのようですね、それならば僕は何も言いません」



何も言わないというより何も言えないというのが正しいですが。
この伽藍の洞に来た以上それはそれで意味のあることなのでしょうから。



「それに面白いことが起こりそうな気がするんだよ」



「そうですか?」



橙子師も面白いこととは呆れますね。
彼は何か危ないことに関わっています。
それも無意識のうちに。
彼はまさしく普通であろうとしている。
だから彼は普通であることを起源とする人間だろう。
望んで普通であろうとすることはそれ自体が異常であると言うのに。
この矛盾が橙子師の言う面白いことを呼び寄せるのだろうか。






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