影月の書
第十一日目






タタリが完全に具現化するのは今晩です。
この一連の吸血鬼騒動を今日で終わりでしょう。
一番の問題はタタリがどのような姿をとるかですが、おそらくはアルクェイド・ブリュンスタッドの姿をとるでしょう。
ご主人やロード・オブ・ナイトメアさまの姿では、本来の1000分の1の力も出せないでしょうし、力を制御しきれないでしょう。
それでは昨日の二の舞でしょうから。
とはいえもしもの場合の備えもしておかないといけませんね。






僕はすべての備えをして夜を迎えた。
真の切り札を今日は使うつもりだ。
タタリは僕が殺す。
僕は死の概念が実体を持ったものだから、志貴様より殺すことには長けている。
たとえ普通には殺せないものでも、死を与えましょう。
僕にはそれが可能なのですから。





僕は志貴様とシオンさんに合流した。
今日はシオンさんとタタリとの関係を聞きたい。
シオンさんは僕がそれについて尋ねると答えてくれた。
シオンさんはタタリの死徒にされてしまったのだ。
死徒になったものが戻る方法を探しているようだが、それは不可能に近い。
あの魔道元帥ですら出来ないのだから。





僕たちはタタリが出現するであろう場所に向かった。
ここまでは問題なく進んでいる。
しかし問題が起こるとすればこれからです。
もしタタリが朱い月のブリュンスタッドの力の一端を使ったりしたら面倒ですから。





僕たちは情報のままのタタリに会った。
この状態でも殺すことは出来るが、少し時間がかかるので、その間にタタリは姿をとるでしょう。
だからタタリが誰の姿をとるのか様子を見ながら準備を進めた。
予想通りタタリはアルクェイド・ブリュンスタッドの姿をとった。
しかしロード・オブ・ナイトメア様の姿だったときよりも厄介である。
その理由は二つ、一つは今日のタタリは完全であること、もう一つは空想具現化が出来ることである。
空想具現化は自然にしか干渉できないが、自然に干渉する事に関しては完璧ですから。
タタリは早速空想具現化で千年城を呼び出した。
確かに城の中はタタリの世界でしょう、しかし、僕たちにも周りの被害を考えずに戦えるので利点はある。





シオンさんと志貴様は城の中で城の防衛システムとでも言うべきものと戦っている。
これについては時間があれば問題なく突破できるでしょう、所詮は弱い死徒の集まりですから。
だから僕は何も気にせずタタリと戦っていればいいということです。



「ではいきますよ、タタリ!」



「来なさい!」



僕はタタリの攻撃を致命傷にならないようにかわしながら、タタリに近づいていく。
さすがにすべてをかわしつくすことは出来ませんから。
そしてタタリに近づいて接近戦に持ち込んだ。
後は風雅等を駆使してタタリを追い詰めるだけだ。
タタリでも攻撃の瞬間には隙が出来る。
そこにつけこんでこちらのダメージは最小限にして反撃している。





このままいっても勝てるでしょう。
そうして僕はタタリを追い詰めた。
しかしタタリは空想具現化の能力で月落しをしてきたので、それを防ぐのが精一杯でタタリに脱出の時間を与えてしまった。
さすがにアルクェイド・ブリュンスタッドの力を使っているだけあって厄介です。
これは一気に決着をつけるというのは不可能のようですね。
タタリの力を削って空想具現化を出来ないようにしてから止めをさすというのがベストのようです。



「さすがですね、タタリ。しかしどうしてそれだけ空想具現化を使えるのですか?あなたにはそれほどのキャパシティはないはずです」



「これくらいなら全然問題ないわよ、空想具現化の最中はこの星から力を受けているから」



まさかこの星からの供給まで受けているとは予想外です。
これではどうしようもありませんね、ならば志貴様たちが来るのを待ちますか。
その程度のことはたやすいですから。
とはいえまったく反撃しないというわけではないですがね。





そうしてしばらくタタリの空想具現化をかわしたり防いだりしているうちに志貴様たちが来た。
志貴様は僕が押されているのを見て驚かれたようだけれども、別に押されていたのではなく志貴様たちがいたほうが楽に勝てると思ったからである。
その証拠に志貴様が来てからはタタリも空想具現化の的を絞れず、命中率がさらに下がっているので、ほぼすべてをかわせる。
そうして足りを追い詰めると、今度はシオンさんを利用して志貴様の動きを止めた。






僕がタタリを押さえているうちに志貴様はシオンさんの説得をしている。
説得といっても、シオンさんと戦っているのだけれど。
その説得のおかげかシオンさんは自分を取り戻したように見える。
するとまるでタイミングを図っていたかのように、アルクェイド・ブリュンスタッドが現れた。
彼女は自身の空想具現化を使い赤い色の月を生み出しタタリを元の死徒に戻した。
タタリはアルトルージュ・ブリュンスタッドとの契約によって現象になっていたのだがその期限が赤い色の月が出るまでであったのである。
結局僕の真の切り札は使わなくてよくなったようですね。





その後僕たちはタタリになぜ死徒になったのかという原因を聞いた。
彼は人類を救いたかったのだと答えた。
確かにアトラスの錬金術師なら人類の滅亡が避けられないものだと知っているだろうから不自然な理由ではないが、その過程で失敗してしまったようですね。



「悲しいですね、滅亡を防ぐためだったはずが滅亡の方向へ進むようにしてしまうとは。これがアトラスの業ですか?」



「もともとヒトではないものには分からぬさ。われわれヒトがどのような生き物か」



タタリは心底見下したような声で僕に話しかけた。



「そうですね、僕にはヒトの思考で理解できなものも多々あります。しかしヒト同士でも他人の考えを理解できないことも多いでしょう?」



「そうだな、結局、生き物には滅びがいずれは訪れるのだな」



「そうですね」



そう、生きている以上は滅びの可能性というのは常に付きまとうものである。
それをなくそうとしたタタリの行いは自然の摂理に反するものであった。
しかしそれも生きていくものにとって当然の行いであったのかもしれない。
何事も度が過ぎてはいけないということである。
そうして僕たちはタタリに止めをさした。
これでひとまず決着がついた。






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