影月の書
第九日目






戦いも終わり、ロード・オブ・ナイトメア様たちも帰られてやっと平穏な日々が始まるのだろうと思っていたのだが、そうもいかないらしい。
いまだ吸血鬼の被害者が出ている言う噂があるのだ。
ただし、実際には一人の被害者も出ていないようだ。
この件についても実に気になるので今晩も巡回してみることにした。



巡回してみて気がついたのだが、これはおそらく吸血鬼がいると思われる。
ほとんど血のにおいがしないのは気になるが少し近くまで行って見よう。



この気配は志貴様ですね。
どうにも自分で災難を呼んでいるとしか思えませんね。
少し声をかけてみましょう。



「志貴様、このような時間に何をなされているのですか?」


「えっ、MAGIU君か。脅かさないでくれよ」


「すいません、ですが僕の質問に答えていただけませんか」


「変な噂がまだ流れているみたいだから、散歩がてら見回りをしようと思ってね」


「そうやって、また事件に首を突っ込むおつもりなのですか」


志貴様もこれほど不幸とは思いませんでしたよ。
やはり直死の魔眼のせいなのでしょうか。


「やっぱり何か起こっているんだね」


「そうですよ」


「今度はなんだい?」


「また吸血鬼ですよ」


「そうなんだ」



吸血鬼の気配が濃いところに到着した。
ここに吸血鬼がいるのはほぼ間違えないだろう。


「誰かいるみたいだね」


「そのようですね」


「こんばんは」


「こんばんは、私はシオン・アルトシア・エルトナムです」


「遠野志貴です」


「MAGIUです、以後お見知りおきを」


「あなた方が今日ここに来るであろうことはすでに予測済みです」


「さすがはアトラスの錬金術師というところですか」


「あの、話がつかめないのだけど」


「志貴様、説明は後回しにするべきです」


「あなた方の実力を見せてもらいます」


「あなたはここに出現している吸血鬼と関係があるのですか?」



とりあえずここで引き出せるだけ情報を引き出しておかなければ。
せめてここで噂になっている吸血鬼の正体だけでも分かればいいのですが。



「私を倒すことが出来れば教えて差し上げます。もっともその可能性はほぼゼロといっても過言ではありませんが」


「では行かせていただきます。志貴様は下がっていてください」



こうするしか手はないのでしょうか。彼女の目的さえつかむことが出来ればいいのですが。
まあ、おそらくここに出現しつつある吸血鬼にかまれたというところでしょうけれども。



僕が仕掛けた攻撃のおよそ八割はまったくかすりもしていない。
この短期間でこれだけの情報を得ることが出来るとは思いませんでした。
とはいえ残りの二割の攻撃で確実にしとめれば良いだけのことです。



「風雅」


「バレルレプリカ」



これはあのブラックバレルの模造品ですか。僕のような超越種にはつらいですね。
人工頭脳とはいえ、元になった概念というものが存在しているのですから。



「ふぅ、何とかかわせましたか。そちらはかわしきれなかったようですね」


「予測を超えているとは思いませんでした」


「あなたがここにいる目的を聞かせていただけませんか?」


「俺もそれは気になるな」


彼女は事情を話してくれた。
やはりというか予想外というか、はっきりと言ってはいないが彼女は吸血鬼の被害者のようだ。
それにしてもネロ、ロアと連続して二十七祖クラスが現れたと思ったら次はタタリですか。
志貴様も驚いておられたようですが、ここまで来て引くことは出来ないでしょう。



明日からも巡回しないといけませんね。
それとタタリについての詳しい情報もほしいところですね。
今日はこれくらいにしてまた明日にするとしましょうか。






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