影月の書
第七日目
その二







~式神の映像記録(校舎内の戦い)~





ロアは足首を除いて体がすべて消滅していた。
もし今日が満月でなかったならば、これで決着は付いていただろう。
しかし吸血鬼は満月の夜は最も力が上がるため、足首からでも再生することができるのだ。
真祖の姫君はずいぶん弱っているのだろう、ロアが再生していることに気づかなかった。
真祖の姫君は志貴に話しかけた。


「よかった志貴が無事で、これで終わったよね」


「アルクェイド、お前」


「ごめんね、志貴、私もう駄目みたい」


「別れの挨拶は済んだか、志貴」


「四季、お前」


志貴は大変怒っているようだ。もはや殺気立っているといえるほどだ。
志貴はメガネをはずした。その瞳の色は浄眼の証である青色になった。
これから、志貴とロアの戦いが始まる。






~式神の記録映像(校庭の戦い)~





MAGIⅡが一時戦線を離脱して、刹鬼と妖妃が戦闘している。
刹鬼が持ち前のスピードで妖妃を翻弄し、雷轟で連続斬りを放っている。
それにより妖妃はたくさんの切り傷を負ったが、紅火降龍扇で炎の竜を作り出し反撃している。
戦線を離脱しているMAGIⅡは、懐から何かシロップのようなものを取り出して、それを二種類飲んだ。
MAGIⅡの様子を気にかけていない刹鬼と妖妃はそれには全く気が付いていなかった。
しかし、まわりで見ている他の者たちは気づいているようだ。
刹鬼は妖妃の生み出した炎の竜を懸命にかわし、反撃の機会をうかがっている。
妖妃は追撃の機会をうかがいながら、自身の傷を治療している。
刹鬼は炎の竜をかわしきれず、何箇所か傷を負った。
MAGIⅡは何らかの呪文を唱えて、自分の傷を治療し、刹鬼に向けて風の竜を放った。
その攻撃を予測していなかった、刹鬼は炎の竜と風の竜の攻撃の直撃を受けた。


「MAGIⅡ、貴様は攻撃呪文しか使えないはずでは」


刹鬼はそういって、気絶した。


「刹鬼はこれで完全にこの戦いでは敗北ですね」


「MAGIⅡ~、あなたまだ戦えるのね」


「ええ、まだまだ、僕はこの程度では敗北できませんよ」


「殺し合いならあなたが一番でしょうけど、こんな形で刹鬼がやられるなんて思いもよらなかったわ」


妖妃は本当にこの展開を予想していなかったようだ。


「僕からすれば予定調和ですけれども」


MAGIⅡは自信たっぷりと言った。


「刹鬼も言ってたけど、あなたは回復系の呪文は使えないはずよ」


「ええ、僕自身に回復系の呪文を使う才能はありません」


「じゃあ、どうやって回復したの。それにいまの風の竜は」


「それは自分で考えてください。さあ、戦いの続きを始めましょう」


「わかったわ、戦いの中であなたの能力を見極めてあげる」


刹鬼が完全に脱落し、妖妃とMAGIⅡの戦いが始まった。






~式神の映像記録(校舎内の戦い)~





ロアは志貴を全く敵とみなしていないようだ。


「志貴、お前はゆっくりといたぶってやるよ」


「四季、よくもアルクェイドを」


「そんなことより殺しあおうぜ」


ロアは四季に切りかかった。
志貴はその攻撃を紙一重でかわした。


「四季、お前まさか」


「そのとおりだよ、これもお前のおかげだな」


「お前みたいな奴が俺と同じ目を持っているなんてな」


志貴はロアの目が直死の魔眼であると思った。
ロアは志貴に向かって追撃をした。
志貴はこれも何とか紙一重でかわした。
志貴には攻撃が大体読めているようだったが、身体能力に差がありすぎるためいずれ避けきれなくなるだろう。
ロアの攻撃はだんだん鋭さを増し志貴を追い詰めていく。
とうとう志貴はロアの攻撃を食らった。






~式神の記録映像(校庭の戦い)~





MAGIⅡは妖妃を精神的に追い詰めていた。
妖妃はMAGIⅡの予想外の能力に驚き、動きに繊細さが欠けていた。


「どうしたのです、妖妃。動きが鈍っていますよ」


「あなたの能力は何なのよ」


妖妃はそのことが大変気になっているようだ。


「自分で考えて下さいと言ったはずですが」


妖妃は腹を立てているようだ。


「わかったわよ、あなたがどんな能力を持っていたとしても倒して見せるわ」


「それでこそあなたらしいです」


MAGIⅡは心から喜んでいるようだ。
二人の戦闘が再び始まった。
妖妃も元の動きを取り戻し、紅火降龍扇で炎の竜を放った。
MAGIⅡもそれに対抗するかのように風の竜を放った。
炎の竜と風の竜がお互いに絡み合いすさまじいまでの爆発を起こした。
しかし、MAGIⅡにも妖妃にもダメージはないようだ。
妖妃が紅火降龍扇で直接攻撃に出た。
それをMAGIⅡは華月で受け止めた。
MAGIⅡは妖妃の攻撃をそのまま受け流し、返す刀で反撃した。
妖妃はその攻撃を予測していたかのようにかわした。


「MAGIⅡ、あなたに斬られるのは流石にまずいからね」


「よくかわしましたね」


「敵の攻撃を受け流してから返す刀でも反撃はあなたの得意パターンでしょう」


「そうですね。でも予想していてもなかなかかわせないものですよ」


「そうね、その辺の雑魚妖怪ではあっさり殺されているでしょうね」


妖妃は自分ならかわせたのは当然という口調だった。


「それなら続けていきますよ」


MAGIⅡはかわせるものなら、かわしてみろといわんばかりに追撃を仕掛けた。
その攻撃を予想していたのかMAGIⅡの斬撃はすべて空を切った。
しかし、途中でMAGIⅡが蹴りを入れたのまではかわしきれず妖妃は蹴りをまともに食らった。


「流石に蹴りまではかわし切れなかったようですね」


MAGIⅡは自信たっぷりにいった。
妖妃は素早く回復呪文を唱えた。
MAGIⅡは妖妃が回復呪文を唱え終わる前に風の竜で追撃した。
妖妃は回復呪文を唱えきれず、何とか風の竜はかわしたが、MAGIⅡの追撃の魔力弾を受け気絶した。


「ふぅ、これで僕の勝ちですね」


MAGIⅡは安堵して言った。


「ご主人、第一戦は僕の勝利です」


楊ゼンは呆れてこう言った。


「なんとも卑怯な勝ち方ではあるがな」


「ご主人、僕の能力は他の二人に劣るのですから多少卑怯といわれる手段をとるのも仕方ないと思いますが」


「それもそうね」


ロード・オブ・ナイトメアがそう付け加えた。


「相手が戦えるか否かを見抜けなかった刹鬼が馬鹿なだけだな」


雷禅がさらに加えて言った。


「妖妃ちゃんももう少しはやると思ったんだけど~ん?」


「いまさら言っても仕方がないことじゃな」


妲己と女カが妖妃について評してそう言った。


「それではそろそろ次の戦いに移りますか」


楊ゼンが提案した。
それに反対するものがいなかったので次の戦いが始まろうとした。






~式神の映像記録(校舎内の戦い)~





ロアの攻撃を受けたにもかかわらず志貴は死んでいなかった。
ロアが見ていたのは死の線ではなく、生かしている線だったのだ。


「四季、俺とお前とじゃあ、見えているものが違うんだよ」


「志貴、お前どうしてまだ生きているんだ」


志貴は廊下の一点を突いた、おそらくそこが廊下の死の点なのだろう。
廊下が一瞬にして崩れ落ちた。
ロアはそこから何とか這い上がったが志貴に死の点を突かれて死んでしまった。
これでロアという吸血鬼は完全に消滅した。
大きな音に気が付いたのか校庭で今にも戦いを始めようとしていたものたちが集まってきた。


「遠野君、決着はついたのかい」


「楊ゼン君、でもアルクェイドが」


そう話していると瓦礫が少し動いた。


「どうやら真祖の姫君は生きておられるようですね」


「アルクェイドは無事なのか」


志貴はそう言って瓦礫を退かした。
そこには予想通り弱ってはいたが真祖の姫君がいた。


「志貴、あなたがロアを殺してくれたの」


「ああ、そうだけど、それよりお前は大丈夫なのか」


「私は大丈夫よ。ロアに取られていた力も戻ったから」


「ところで楊ゼン君たちはなぜここにいるんだい」


「戦いをしているんだよ、遠野君もよかったら見ていくかい」


「私は見ていくわよ、魔界のトップナインの戦いなんて早々見れないもの」


「俺も見ていくかな」


その頃やっと起き上がったのか刹鬼と妖妃も向かってきた。


「俺たちをおいていくなよな」


「そうよ」


刹鬼たちはいかにも文句ありげに言った。
そうして次の戦いの幕があけた。






戻る  次へ