影月の書
第2日目

 

 

朝になり、志貴様は遠野の家に帰られたようだ。
ご主人が学校にいかれたら僕も外に出て見回りをしようと思う。
もし真祖の姫君であるアルクェイド・ブリュンスタッドがここ最近の事件に関わっているとすると、
夜だけではなく昼間も事件が起こる可能性があるから、ということもあるが、
志貴様の様子が気になると言うのが一番の理由である。
ご主人が家を出られたので僕も行動を開始することにする。



通学路に行ってみると、
予想通りアルクェイド・ブリュンスタッドがいた。
どうやら志貴様を待っているようだ、しばらく様子を見ていると、
志貴様がこられた。
志貴様は真祖の姫君を見つけて大変驚かれているようだ。
やはり、昨日の真祖やほかの吸血鬼についての説明を理解されていないようだ。
志貴様はその場から逃げ出された。
いきなり自分が殺した人が目の前に現れれば当然の行動であるが、
昨日僕が説明したことをすべて忘れられているのは少し悲しい。
しかし昨日の志貴様の精神状態を考えればそれも仕方がないことであるが、
せめて彼女のことについては覚えていてほしかった。
志貴様の様子が気になるので姫君に見つからないように後をつける事にする。
志貴様は驚くべきスピードで逃げられているが姫君からすれば、たいしたことのないスピードのようだ。
志貴様は袋小路に追い込まれた。
志貴様と姫君が会話を始められたようなので、そちらに耳を傾けることにする。


「何で生きているんだ、確か、俺が殺したはずなのに」


「ええ、私はあなたに殺されたわ。でも私は生きているわ。
運が悪かったわね、あなたがこれまで何人殺してきたかは知らないけど私を狙ったのがあなたの運のつきね」


「何で生きているんだよ。さっぱりわからないよ説明しろよ」


「わかったわ、説明してあげる、と言いたいところだけど邪魔が入ったようね」


志貴様たちの会話を聞くのに夢中になっていたために気がつかなかったが、
ほかの吸血鬼の式神(使い魔)がいるようだ。
そいつの始末は姫君に任せようと思ったが、姫君の力が弱っているようなので僕が始末することにする。
あまり目立ちたくないのだが仕方がない。
僕の武器はご主人が作って下さった刀で銘は華月という。


「風雅の舞」


この風雅の舞と言う技は真空波を生み出して敵を斬る技で僕が最も得意とする技である。
一様、武器なしで戦う方法もあるのだがやはり刀を使うほうが不意打ちにもなり、反撃も受けにくいのでよい。


「何が起こったの」


「誰だ?」


姫君と志貴様が気付かれたようなので仕方がないので出て行くことにする。


「僕ですよ、志貴様、MAGIUです」


「何をしたんだい」


「ちょっとした技ですよ。この刀自体の能力でもありますけど。真空波を起こしたんですよ」


「あなたは何者?そんな刀は見たこともないわ」


「それは秘密です。とりあえず彼の知り合いとでも言っておきますか」


「判ったことは私を殺した男と知り合いだということとあなたの名前が普通ではないということぐらいね。
MAGIとは東方の大賢者のことでしょう、
自分をそんな風な名で名乗るなんて悪趣味ね。
ところであなたたち私の護衛をやりなさい。」


と姫君が言われると、志貴様が、


「冗談じゃないと言いたい所だけれど、俺はお前が殺してしまったんだよな。
その責任は取らないといけないからな。
何とか出来る範囲でやらせてもらうよ」


「志貴様がそう言われるのでしたら僕もやらせていただきます」


「MAGIUといったかしら、あなたと志貴は主従関係なの?」


「いえ、違います」


「ところで、なぜ俺は呼び捨てになっているんだ」


「そんな細かいことを気にしてはだめよ。
わたしが呼びたいからそう呼ぶだけだから」


「ところでこれからどうするんだ。俺はどうすればいいんだ」


「とりあえず打ちはもうばれてるでしょうからホテルにでも行きましょうか。
私はあなたに殺されて力が落ちているから」


「そういえば俺はお前に謝ってもいなかったんだよな。
すまない、俺はまずお前に謝っておかなければならなかった。
あまりに変わったことばかりだったのでそんな当たり前のことも忘れていた」


「そんなことはいいから早く移動しましょう。追手が来たら大変よ」


「そうですね、とりあえず話は後にすべきですね」


取り合えずということで僕たちはホテルに移動した。
姫君はホテルの11階を貸しきるというお金のかかる手段に出た。
さすがは姫君お金があるだけはある。
志貴様が、


「お前金持ちなのか。ホテルのワンフロアー貸しきるなんて普通は出来ないぞ」


「その辺の説明は部屋に入ってからするから、後にしましょう」


僕たちは11階に行った。僕たちは適当な部屋に入ることにした。


「さて、部屋に入ったことだし説明してもらうぞ、俺はお前の護衛をするんだそれぐらい当然の権利だろう」


「そうね、説明してあげるわ。
とりあえず、私は真祖に分類される吸血鬼の一種よ」


「あれ、なんか聞いたことがあるような気がする」


「昨晩僕が説明しましたけれど、単語だけは覚えておられたようでうれしいです」


「皮肉はいいよ。そういえば説明してもらったんだよね、すっかり忘れていたよ」


「そんな内輪での話はいいけど、志貴は単語だけは知ってるということでしょう。
私の名はアルクェイド・ブリュンスタッドよ、アルクェイドでいいわよ」


「わかったよ。ところで吸血鬼について説明してくれ。昨日説明してもらったみたいだけどぜんぜん覚えていないし」


「吸血鬼についての授業基礎編」


「基礎編って何だよ」


「志貴は吸血鬼について何も知らないようだから、基礎から教えてあげるのよ。
私は他人と話すの苦手だから分からなかったらいってね。説明しなおすから」


「補足説明ぐらいは僕がやらせていただきます」


「ところであなたはどの程度知っているのよ」


「あなたがここにいる目的まで知っていますよ、真祖の姫君」


「ということはあなたに説明は必要ないということね。
ところであなたは人間なの?」


「確かに僕は人間ではなくロボットですよ。」


「誰がつっくたのかと聞いても答えてはくれないでしょうね」


「いずれ分かりますよ。」


「まあ、そんなことはどうでもいいから説明を続けろ、お前は誰に追われているんだ?」


「ほかの吸血鬼よ」


「ほかの吸血鬼?お前も吸血鬼なのに?」


「吸血鬼は同族といってもそれぞれが別の種族みたいなものなのよ。
吸血鬼は人間ほど仲間意識がないのよ。
ところで志貴は吸血鬼についてどれくらい知ってるの?通説位でいいから」


「俺が知っているのは太陽の光を浴びると死ぬとか、吸血鬼にかまれた人間は吸血鬼になるとかぐらいだぜ」


「ま、普通の人が知っているのはそれくらいよね。
でもあながち間違えではないわ、死徒と呼ばれる吸血鬼がこれにあたるわ。
例外というものも有るけど」


「その死徒と真祖の区別について教えろよ。そんなことも俺はわからないんだからな」


「真祖は元から吸血鬼だったもの、死徒は人間から吸血鬼になったものよ。
真祖やほかの死徒に噛まれるとその人間は俗に言うゾンビになるのよ。
ちょっとゾンビとは違うけど別に専門的に勉強するわけじゃないからいいよね。
そして何年かすると、人間並みの知識を得て、死徒になるのよ、分かった、志貴」


「大体のところは分かったよ。でもお前お狙っているやつってどんなやつなんだ?」


「分からないわ、まだあったことないもの」


「おいおい、あったことないってどういうことだよ」


「とりあえず今日説明できるのはこれくらいよ。
私は寝るから見張っていてね。信頼してるわよ」


「分かったよ」


「任務了解です」


姫君は眠られたようだ。
自分を殺した志貴様がすぐそこにいるというのによく眠れるものだ。
志貴様に敵意がないのを感じ取ったのだろうが、それにしても無防備過ぎる。
そんな風に考えていると志貴様が、


「アルクェイドのやついくらなんでも無防備すぎると思わないか。
俺はあいつを一度殺しているんだぞ」


「確かにそう思います。
でも志貴様はもう一度彼女を殺すつもりはないんですよね」


「ああそのつもりはないよ。
ところでMAGIU君のMAGIにそんな意味があったなんて知らなかったよ」


「そんなことはどうでもいいですけれども、
彼女が最近の事件の犯人ではないようですね」


志貴様はしばらく姫君の寝顔を見ておられたようだがご自身も眠ってしまわれた。
僕はご主人にしばらく帰れないかもしれないことを伝えて、見張りに徹することにした。
さて、今までの情報を整理することにしよう。
姫君はやはり情報通りの人だったようだ。
ほかの吸血鬼がこの近くにいるらしい。
そのこと自体は姫君がいるから分かってはいたが、
そいつに狙われることになるとは予想もしていなかった。
そんなことを考えていると、
いつの間にか夜になり、姫君が目を覚まされたようだ。


「よく寝た…あれなんで志貴まで寝ているの?」


「僕が起きているんですから問題はないでしょう。
ところでよく眠れますね、志貴様はあなたを一度殺した人ですよ」


「そんなことはどうでもいいから志貴を起こそうよ。
そろそろ夜もふけてきたし」


ということで、志貴様を起こすことにした。
志貴様は起きて早々、


「あれ、アルクェイド起きたのか」


「起きたのじゃな〜い。あんたは護衛でしょう護衛が寝てどうするのよ」


「気にするなよアルクェイド。MAGIU君が起きているんだからいいだろう」


「これからの時間はそうはいかないわよ」


「どうやら、お客さんが下に来ているようですよ」


「そう、じゃあ見てきてよ」


「では見てくるとしますか、志貴様、後を頼みます」


外に出てみると、まだこの階まで来てはいないようだが、
下の階も悲鳴を聞く限りこの階に来るのもすぐだろう。
エレベーターが来た。
中には黒い犬がいた。
さてどう戦おうか。やはり無難に刀で戦うことにする。


「風雅の舞」


敵のうち一匹を風を発生させ斬り殺した。
もう一匹も同様に切り捨てた。


「様子はどう?」


と姫君が志貴様を伴ってこられた。
敵の本命もご登場のようだ。


「まだ生きているのがいたか、
役立たずは私の肉体に帰るまでもない、無に帰れ」


なんと言うことだ敵はあのネロ・カオスだというのか。


「真祖の姫君か、とんだ茶番だ。
しかし、これもまた好機か。
なぜそんなに弱っているかは知らないがその首貰い受ける」


と、言ったがどうやら夜が明けるようだ。
ネロは帰っていった。
本日の記録は日付は変わってがここで終わりにする。






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