影月の書
第1日目
僕の名はMAGIU2004年完成の人工頭脳である。
ここ最近巷で噂になっているという化け物騒動について調べようと思う。
この騒動では吸血鬼と呼ばれている者たちが夜になると現れるといわれている。
そこで僕は夜の街をご主人の作られたロボットにプログラムの一部をインストールして、自分の足で調査することにした。
このロボットには戦闘用のプログラムも入れてあるので便利である。しかし吸血鬼に対してもそれが有効であるかは不明であるが、
ご主人は「天才に不可能はない」とおしゃっていたので大丈夫のはずだ。
今日は無難に公園と路地裏あたりを見回ってみようと思う。
公園に行ってみるとご主人のご学友の遠野志貴様がおられた。
「こんな時間に何をやっておられるのですか、志貴様」
僕が声をかけると志貴様は大変驚かれているようだった。
「誰だ、…あ、楊ゼン君のところのMAGIU君か、驚かせるなよ」
「すいません、以後気をつけます」
「ところで、どうしてこんなところに君がいるの?」
「ここ最近は物騒なので見回りをしようかと思いまして、ご主人に作っていただいたこの体を使って見回りをしているのです。
志貴様はこんな時間にここで何をしておられたのですか?」
志貴様は顔色を変えられて、
「人を殺してしまった」
「人を殺した、志貴様はそのような人には見えませんが」
志貴様はお悩みになっておられるご様子だった。
僕にはご主人が何度も転生されたときの記憶が保管されていたが、その記憶をもとにしても、
志貴様がそのようなことをなさる根拠となるものが思い当たらなかった。
「ところで、志貴様が殺された人というのはどのような人なのですか?」
「金髪で、赤い目をした女性かな」
その返事に僕は驚かされた、ご主人の記憶の中にその条件に合う人がただ独りだけいたからである。
その人(?)の名はアルクェイド・ブリュンスタッド、真祖の姫である女性のことである。
そこで僕は彼女の似顔絵を書いて志貴様に確かめることにした。
「こんな感じの人ですか?」
志貴様は大変驚いて、
「この人だよ、MAGIU君この人知っているのか?」
「いえ、ご主人の記憶の中にあったのです」
「楊ゼン君の記憶?」
「そうです、志貴様はご主人に聞いていませんか?」
「そういえば聞いたことがあるよ、君の中に楊ゼン君の記憶が保管してあるって」
「彼女はアルクェイド・ブリュンスタッド、真祖の姫君です」
「真祖?」
「真祖とは生まれながらの吸血鬼のことを言います、志貴様わかっていただけましたか?」
志貴様はその後もいくつかの質問をなされたので、僕が答えられる範囲で答えた。
志貴様はあまりわかっておられないようだったが、どうせもう吸血鬼などと関わる機会はないだろうから
説明は基本的な吸血鬼についての知識だけを教えることにした。
しかし真祖の姫君は血を吸わないという情報がご主人の記憶にあるのだがこれはどういうことなのだろうか。
ご主人の記憶に間違えはないはずだ。と言うことはほかに吸血鬼がいるのか、
それとも真祖の姫君が変わってしまわれたのかどちらかだが、どちらか今はわからないのでまた明日にでも調べてみようと思う。
ついつい思いにふけっていると、
「ここ最近話題になっている吸血鬼というのはその女性のことなの?」
「今の段階では判断できません」
と答えた。
僕には志貴様が何を悩んでおられるのか想像出来るが、
これは志貴様自身で解決すべき問題であるので僕は口出しすべきでは無いと思う。
とは言えこのままでは志貴様の健康に悪いので、ここでの会話はそろそろ打ち切ることにする。
「志貴様、これ以上はお体に悪いですよ。そろそろ戻られたほうが良いのではないですか?」
「今日は家には帰りたくない、すまないけどほっといてくれないかい」
と、おっしゃったが、志貴様は大変顔色が悪いようなので、このままにしておくことはできない。
「ならば家にこられますか、家なら一人増えたところで問題ないでしょうから」
「そうさせてもらうよ。迷惑をかけるようで悪いね」
とりあえず今日の見回りはこれくらいにして、志貴様を家に案内することにする。
家は中国から渡ってきた一族ではあるがすでに先代のころ日本人になっている。
お金のほうはご主人が道楽で僕のようなロボットを作ってもまったく問題ないほどである。
家には何人かのお手伝いさんと、ご主人だけが住んでおり、部屋はたくさん余っている。
ご主人の家族の方々は隣の県の本邸のほうに住んでおられるためにご主人は自分の都合だけを気になされていればよいという状況である。
志貴様を連れて家に到着した、ご主人にどう説明するかが問題である。
とりあえず志貴様が家に帰りたくないということを説明することにする。
「ただいま戻りました」
「お邪魔します」
家の中に入った。
ご主人はまだ起きておられるようで部屋の電気がついていた。
ご主人が部屋から出てこられた。
「MAGIU戻ったのか。おや、遠野君ではないですか、どうしてこんなところにいるのですか?」
ご主人は予想通りの質問をなされた。すると志貴様が、
「今日はいろいろあって家に帰りたくない。楊ゼン君の家に泊めてもらえないかな?」
「別に家に泊めるのはかまわないし、事情とやらも聞くつもりはないけど、遠野君の家には連絡は入れておくべきだと思うけど」
「そうだね、家には連絡しておいてもらえないかな?」
「よほどの事情があるようだし、顔色もよくないようだね。
今日のところは家に泊まるといい、部屋は自由に使ってくれてかまわないよ。」
その後ご主人と志貴様は少しお話しされ、お二方ともお休みになられたようだ。
本日の記録はこれくらいにしてまた明日記録をつけることにする。