魔にして魔を狩る者
プロローグ
僕の名は水城薫。一応男だ。名前のせいもあり、よく女と間違えられるけど、れっきとした男だ。
僕の年齢は今現在7歳である。一人で出かけるには少し若すぎるかななどと思うことも無いわけではないがそれはそれだ。
水城家は混血の家系なので、人間かどうかという多少問題があるかもしれないけど、人間社会に適応しているのは確かだ。
ついでに言うと水城家は御金持ちの家ということになる。あと、魔術師の家系でもあるということだ。
まあ、魔術師であるためにはお金が必要だし、人間社会に適応するにもお金があるに越したことが無いのだが、
今の僕は家出人という状態なのだ。うちの家系の魔術を一通り学んだがそれだけでは納得できなかった僕は新しい師を探している。
まあ、自己紹介はこれくらいにしておいて、さっさと魔術師を探すとするか。
とりあえず僕にできることは結界が張られている場所を見つけ出すことぐらいか。
それからあとはとりあえずその魔術師の工房に乗り込んでみるしかないというわけだ。
下手すれば殺されるかもしれないけど、一介の魔術師程度に混血の血を完全ではないとはいえ制御している僕を殺せるはずが無い。
封印指定の魔術師が相手なら別だろうけれど、そう簡単に封印指定の魔術師が見つかるわけ無いし大丈夫だろう。
おっ、早速結界を発見した。
しかしこれはまずいかも、封印指定レベルの魔術師のようだ。
本当についているのかいないのか。
どちらにしてもこうなればあとはどうにでもなれということだ。
とりあえず乗り込んでみよう。死んだときは運が無かったということで諦めよう。
「すいませ〜ん、ここに封印指定クラスの魔術師がいると思うのですが?
「この結界を突破してくる魔術師がいるなんて思わなかったわ。しかもこんなに若い魔術師さんがね〜?」
若いというのならばおそらくこの女性もまだ二十代といったところなのではないだろうか。
これほどの結界を張れるような魔術師だ、名が売れてないはずがない。
「ところであなたのお名前を伺いたいのですが」
「あれ〜?知ってて来たというわけじゃないの?ならなおさら不思議ね〜。私の名前は蒼崎橙子よ」
これは予想外だ。
最高位の人形師、封印指定を受けた赤の人形師がこの日本にいるとは。
「蒼崎橙子?協会から赤の称号を受けた人形師ですか?」
「そうよ〜。何だ知っているじゃない」
彼女はいかにも不思議そうな顔をしていた。
それはそうだろう、この結界はよほどのことがなければ見つけることすら出来ないだろう。
僕とて魔道具を使ってやっと見つけたのだ。
「でも聞いていた話とイメージが違うので分からなかったんですよ。あっ、僕は水城薫といいます」
そう言うと橙子さんは眼鏡を外してこう言った。
「ほぅ〜、あの水城の家のものか」
「性格を切り替えたということですか、確かに他人と接するには眼鏡かけている時の方がいいでしょうしね」
これまた意外だ。性格の切り替えなんて面白い技術まで持っているとは。
ますます興味をそそられる女性です。
「お前に言われなくてもそのようなことは承知している。ところで何のようだ、水城の跡継ぎよ」
「僕を弟子にしていただけませんか、赤の人形師さん」
そう、これが僕の来た目的なのだ、これはなんとしても成し遂げる。
「ほぅ〜、水城の家系は魔術に関しても協会から管理人を任されるほどだと聞いているが」
「それは蒼崎の家も同じなのではありませんか?」
「貴様なら知っているはずだろうが、私は蒼崎の後継者ではないぞ」
蒼崎の後継者は確かに妹の蒼崎青子なのだが彼女は魔術師としては才能がないと聞いている。
「でも魔術師としての才能はあなたの方が妹さんより上なのではありませんか」
「ふん、いいだろう、お前を弟子にしてやるよ」
「ありがとうございます。これからは橙子師と呼ばせていただいてもよろしいですか?」
「いいだろう、ところでお前はどれくらい魔術が使えるんだ?」
「僕ですか、僕は水城の魔術刻印の分とあとは変化の魔術ぐらいですかね」
「変化とは奇妙なものを使うんだな」
「変化が僕の体には一番合うらしいですから」
普通なら変化などという魔術はあまり使わないものだ。
変化の魔術というのはあまり効率のよいものではないからだ。
でも僕の場合は普通の人とは違い、変化の魔術なら魔力消費がすくないのだ。
「そうだな、貴様の変化の魔術がどれほどのものか見てやるからやってみろ」
「分かりました。じゃあ、このナイフに変化をかけますね。
我が意、天に届く
天、我が意をかなう
変化」
僕はナイフを変化させて日本刀に変えた、本来ならこれほどのことはあんな短い呪文ではできないのだ。
だからこそ僕は変化の魔術が得意だといえる。
その派生として治癒魔術も使えるのだが。
本来これも相当の魔術師で無いと使えないのだ。
それをよく知っているのだろう、変化の魔術を見た橙子師は大変驚いている。
「君は相当の変わり者のようだな」
「そうですね」
「まあいい、明日からここへ通え。それとどうせ家出してきたのだろう、それについては私が手を打っておいてやる」
「橙子師、ありがとうございます。」
かくして僕は赤の人形師たる蒼崎橙子に弟子入りした。
このあと、水城の家で一悶着あったのだがそれはそれとしておこう。