魔にして魔を狩る者
第十九話











衛宮君の魔術の属性は五大元素のどれでもないみたいだ。
もとよりその程度のことは予想済みだから何の問題もない。
それよりも問題なのは基礎の基礎すら知らないということだ。
これなら鮮花さんのほうがましといったレベルだろう。
あえていい点を上げるとすれば使える魔術が強化であるということですか。
僕が変化を一番得意としているからその下位概念である強化を教えることはそれほど難しいことではないですから。
しかも僕と同じく細かいところまで解析することが出来るみたいですし。
物の解析に関しては衛宮君のほうが上でしょうね。
衛宮君の属性が何かを調べるにはいろいろなものを解析させてみて、最も解析しやすいものから類推していくというのが一番でしょう。
そしてそれが終われば属性の近いところから徐々に鍛えていくという方法をとるのが最善でしょう。
まあ、どこまでの範囲で鍛えるのかというのが問題ですが。





一日かけて衛宮君にいろいろなものを解析させてみてわかったことは、彼の属性はおそらく剣であろうということだ。
僕が魔眼で詳しく衛宮君の体を解析してみると、完全には解析し切れない何かが衛宮君の体の中に溶け込んでいることがわかった。
僕の魔眼でも解析しきれないということはそれは宝具クラスの神秘を持っているものだということだ。
それの影響で衛宮君の属性が決まっているのだとすれば、それは剣か、あるいは剣にかかわる何かだろう。
僕にはそれの、元の形がわからないので衛宮君の体からそれを摘出することは出来そうにない。
衛宮君は体の中に何かが入っているということすら気づいてないみたいなので、黙っていよう。
おそらくそれは前回の聖杯戦争にかかわるものだ。
そのことを話せば、衛宮君は後には引けなくなってしまう。
今の未熟というレベルにすら至ってないような、踏み込んでいいような領域ではない。





衛宮君の属性がわかったので、その翌日から剣の強化の練習をしてもらうことにした。
そのとき初めて衛宮君が魔術を使おうとするのを見て、僕は衛宮君の正気を疑った。
魔術回路を位置から作るなんてホント正気の沙汰じゃないですよ。
そんなことを7年近く繰り返していたって言うですから驚きです。
衛宮切嗣はそのことに気づいていなかったのでしょうか。
とりあえず今日はスイッチを作るということに費やさなくてはいけないみたいですね。
こんな感じでは何が出来るのか簡単にではなく徹底的に聞いておかなくてはなりませんね。
衛宮君が自分の才能を見逃しているということは十分考えられますし。
ホント厄介な弟子を取ってしまいましたね。
ほおって置くと下手すると神秘の隠匿すら無視するような行動に出かねませんから見過ごすわけにも行かないですし。
遠坂の今代は衛宮君のことを把握してないみたいですし。
遠坂の今代は僕とほとんど年は変わらないはずですし、衛宮君はほとんど魔力の残滓を残していないみたいなので把握できてないのも仕方ないことかもしれませんが。
それでも衛宮切嗣は前回の聖杯戦争の関係者なのだから気づけるような要因はあるはずです。
それが出来ないとは意外と抜けているんですね、遠坂の今代は。





衛宮君にスイッチを作った翌日おそらく立つことすら困難なのではと思っていたが、衛宮君はほとんど問題なく動けるみたいだ。
7年近く毎日魔術回路を位置から作ってきたっていうのはまったく無駄であったというわけではないみたいですね。
まあ、肉体的には回路が使われていなくてさび付いているという負の点もありますが。
精神的には短い時間で自分を落ち着かせるということが出来ることは有益でしょう。
僕も気になることが早く聞けるわけですし。




「衛宮君、今回の件で思い知ったことですが、あなたには使える魔術をすべてどの程度のレベルまで使えるのか話してもらいます」



「それって普通一番最初に聞いておくべきことなんじゃないか?」



「魔術師は普通自分の手の内を隠すものですよ、僕とて他人に自分の切り札を知らせるつもりはほとんどありませんし」



「そういうものなんだ。俺はほかの魔術師は切嗣しか知らないから知らなかった」



「基礎以前の問題ですね。魔術とはどういうものかから教えたほうがいいのかもしれませんね」



「俺ってそんなにだめか?」



「いいとかだめとかっていう判断の基準以前ですよ」



「そうなんだ」



「まずは座学からやったほうがいいですね。実践はその後です。一通りの魔術の特性については知ってもらいます」



「俺はそういうの苦手なんだよな」



「大丈夫ですよ、必ず覚えさせて差し上げますよ、どんな手を使ってでも」



「どんな手でもってどういうことなんだ?」



「いざとなったら暗示でも使うってことですが」



「何でさ?」



「衛宮君は魔術に対する耐性が一般人並みみたいですから楽じゃないですか」



「それでも暗示とかはなしだろう」



「じゃあ、しっかり覚えてください」



「わかったよ」





そういうことで魔術の講義からはじめることになった。
衛宮君はホント初歩とも言っていい常識すら知らなかった。
三大部門とかぐらいは知っていてほしかったな。
時計塔ぐらいは知っていたので良かったですが。
この調子だと春休み中は座学だけで終わりそうですね。
GWあたりから本格的に魔術を教えることになるでしょう。

戻る 次へ